Legend of Hiruko

失われた神

イザナギとイザナミの間に生まれた最初の神でありながら、古事記においては「わが生める子良くあらず」という理由で葦船に乗せられ、海に流されたというヒルコ。全3巻、5万5千字にもおよぶ古事記の中で、ヒルコについて言及されているのはたったこれだけです。そのため、ヒルコは日本神話の中で、もっとも謎が多い神の一柱となっています。また、日本書紀にもヒルコは登場しますが、こちらではアマテラスとツクヨミのあと、3番目に生まれた神とされており、3歳になっても脚が立たなかったため、やはり海に流されたという記述があります。

この謎のベールに包まれた神は、後世の人々のイマジネーションを大いに刺激しました。商売繁盛の神として、今もなお多くの参拝者を集める恵比寿信仰もそのひとつ。水蛭子や蛭児、蛭子と記載されていたヒルコが、「蛭子=エビス」として浜辺に漂着し、恵比寿神になったという説がまことしやかに囁かれるようになったのです。しかし、恵比寿とヒルコを同一視する説は室町時代に生まれたものであり、そもそも神話の時代に漢字は存在しません。そのため、これはあくまでも後世に誕生した想像の産物と見るべきでしょう。

そして、私たちもまた、このヒルコの神話から大きなインスピレーションを得た者の一人です。「わが生める子良くあらず」という理由で海に流されたヒルコの物語は、生産者以外の目には触れぬまま、見捨てられてきた数知れない真珠の運命に酷似しています。ただ、さまざまな欠陥がある真珠をどのように捉えるかは、完全に受け取る側の問題ではないでしょうか。これらの真珠に何か特別なものを見出すことができるとしたら、いまだ誰も見たことがない新たなクリエイションへの可能性が無限に広がります。もしかすると神々が「海へ流した」という表現は、こうした価値判断を「漂着する先々でヒルコを受け取る人々の感性に委ねた」ということを意味しているのかもしれません。

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